ボルヘス、ジャンル小説を語る。
『ボルヘスの北アメリカ文学講義』第13章が概ねジャンル小説周辺に充てられている。まずはミステリの祖とされるポウ。
最初に出た「モルグ街の殺人」は、一見密室と思える屋根裏部屋で二人の女性が惨殺された事件を扱う。犯人は■■■■■■■である。「盗まれた手紙」では、貴重な品を誰にも気づかれぬよう■■■■■■■■■■に置く。〔…〕「お前が犯人だ」の犯人は、〔…〕■■■■である。*1
これはいいネタバレですね。自粛しときました。他にヴァン・ダイン、ガードナー、クィーン、ハメットについて語っている。
続いてSF(当時独立していなかったホラーやファンタジーも含めて考えられている)。
一九二六年、ガーンズバックは『アメージング・ストーリーズ』を発刊した。現在、合衆国では同種の雑誌が二十点以上刊行されている。サイエンス・フィクションは広い人気を持つジャンルではない。読者の大半はエンジニア、化学者、科学関係者、技術者、学生で、圧倒的に男性が多い。熱中した読者がファンクラブを作ったりもする。国全体に広がるクラブが何十と存在している。あるクラブは、いささかのユーモアを込めて「リトル・モンスターズ・オブ・アメリカ」と名づけられている。
読者の大半は、から、モンスターズ、までの記述に、喪っぽさの指摘を感じてしまうのはこちらの偏見でしょう。このあといきなりラヴクラフトから始めているのがなんともボルヘスらしい*2。他にハインライン、ヴァン・ヴォクト、ブラッドベリに触れている。自分が影響を与えたかもしれない当時の英米ニューウェイヴ運動をどう思っていただろうか。
最後は、自国のガウチョ詩と共通点のあるウェスタンに軽く触れてこの章は終る。挙げられているのはゼイン・グレイ*3。当時ハーレクィンがだんだんのしてきていたと思われるが、これについては触れられていない。【id:chinobox】
*1:ホルヘ・ルイス・ボルヘス(+エステル・センボライン・デ・トーレス)『ボルヘスの北アメリカ文学講義』(BORGES, Jorge Luis, Introducción a la literature norteamericana [1967] / An Introduction to American Literature, trans. by L. Clark Keating & Robert O. Evans)柴田元幸訳、国書刊行会《ボルヘス・コレクション》、2001年、171-172頁。
*2:ボルヘスには〈ハワード・P・ラヴクラフトを偲んで〉と但し書きされたクトゥルー系掌篇「人智の思い及ばぬこと〔ゼアラー・モア・シングズ〕」がある。
*3:グレアム・グリーンの『第三の男』で、ロロ・マーティンズが影響を受けた作家として挙げて、『墓畔の哀歌 (岩波文庫 赤 210-1)』の英国詩人トマス・グレイと間違われる。