『クォンタム・ファミリーズ』

東浩紀氏の『クォンタム・ファミリーズ』の書評を、25日発売の「波」(2010年1月号)に寄稿しました。量子コンピュータや並行世界の出てくるガチガチのSFですが、ロス・マクドナルド横溝正史、最近の作品だと三津田信三氏の刀城言哉シリーズみたいな、入り組んだ家系ものの要素があって、SF的なガジェットにアレルギーさえなければ、本格ミステリ読者にも面白く読めると思います。

「波」の書評も、入り組んだ「家系」の扱いに注目したものです。「400字4枚で」という注文に、さすがにそれでは足りませんと言って、倍の8枚に増やしてもらったのですが、やはり説明不足の感は否めない。あちこち削ったせいで、実はかなり苦しいところもあります。まだ発売前の雑誌なので多くは書けませんが、ちょっとだけ予防線を。

文中でロス・マクドナルドの中期から後期への作風(プロット)の変化を、「見通しのいいツリー構造から分節困難なセミ・ラティス構造に変質した」と表現しているのですが、正確には「見通しのいいツリーに容易に分節できる構造から、分節困難なセミ・ラティス構造に変質した」と書かなければいけない。ロスマクの場合、ツリーかセミ・ラティスかではなくて、オーバーラップする結節点が単数か複数か、というところがカギになっているからです。枚数の都合でそこらへんの説明を端折ったというか、文系のレトリックでごまかしたところがある(本家のアレグザンダーも、ツリーという言葉をルーズに使用しているようです)ということを、あらかじめお断りしておきます。

クォンタム・ファミリーズ

クォンタム・ファミリーズ