「かわいい」ものと「はこ」とか。

昨年末以降に見た美術展のあれこれ。

『伝統から近代まで 浅原コレクションの世界 日本人形の美』@そごう美術館 は、コレクターの収集基準が反映しているのかもしれないが、江戸時代以降の「かわいい」人形が勢ぞろい。人形のかわいらしさの雰囲気は、横山隆一の「フクちゃん」や松本かつぢの「クルミちゃん」あたりの無邪気さとお茶目さに似ている。犬や鳥は、和もの雑貨店に並んでいそうなまったりした愛らしさ。江戸時代のガラス製の犬はレプリカを作ってほしいくらい、現代の趣向と変わらない。こういう人形を見ていると、日本人のかわいいもの好きは連綿と続いているのだなと思う。

現代の「かわいい」の代表に「キティちゃん」がいる。『Girlish Culture 大人の女性に贈る展覧会 ハローキティ展@そごう横浜店 は、キティちゃん登場の35年前の製品から、「ピンク」を使ったデザインのリニューアルと現在の海外セレブもファンにしてしまうまでの展示。
サンリオの製品を購入すると包装に付けてくれる小さなマスコットのコレクションの展示方法がうまい。小さな瓶の中に入れて壁面にずらり並べており、小さな宝物という位置づけを見せている。このマスコットは、サイズが大きくなるとデザインが間延びをしがちで、「小さく」なって「細工が凝縮する」とデザインの質が概ね上がる傾向がある。『日本人形の美』でも展示されていた、江戸時代の贅沢禁止令をすり抜けるために、思い切りサイズを小さくして、代わりに超微細加工を施した雛道具(結果としては高価)を作ったのと性格が似ているような。
キティの製品は1970〜80年代のものは大体記憶にあるのだが、覚えがなかったのが、木製のミニチュア家具のコレクション。どうも、ひとつずつ買い集めてコレクションを完成させるものだったらしい。リカちゃん人形のサイズには小さく、シルバニア・ファミリーが発売されるより前の製品なので、子ども向け、というよりお姉さん世代向けの製品だったのだろうか。

小さな家具といえば、昨年末に銀座の桑原弘明展 Scope』@スパンアートギャラリー で見た小さな箱の中に設えられたミニチュアの世界がすごかった。
小さな箱の中のミニチュアをレンズ越しに覗く作品。明かりがないと箱の中は見えないので光穴から懐中電灯を差し入れるようになっており、光穴の位置によって箱の中の表情が大きく変わるのが面白い。箱の内側は床面以外は鏡が張られており、いわば立体万華鏡。『押絵と旅する男』の立体バージョンがあるとすれば、この箱の中に居つくことになるのではないか。箱の内側は鏡が貼られているし、レンズ穴があるし、と作られ方も乱歩っぽい。

自分は箱の中に入ってしまったのではないか、と一瞬驚いたのが束芋 断面の世代』@横浜美術館 の「ちぎれちぎれ」。
狭い区画の中で鏡張りにした床面が、ビルの高いところから到着地点の見えない下方を覗いているようにも、深い水底を覗いているようにも見える。その遠い底のように見える床面の鏡に、プロジェクターで天井に映し出されたちぎれ雲の流れる映像が映し出されている。真ん中の空間にはCTスキャンを受けているような体勢で寝ている男性の人体模型のアニメーション。入り口は閉ざされていないのに、なんだか狭いところに追い込まれたような、それでいてこの場所が底の見えないどこかにつながっているような、奇妙な場が作られている。

束芋とはまた違った形式で「箱」の中に入るのが、内藤礼 すべての動物は、世界の内にちょうど水の中に水があるように存在している』@神奈川近代美術館
美術館全体をつかった作品。2階の第1展示室全体が光を遮断され、豆電球、瓶、リボンを展示ケースの中に配置した作品は、最初は、クリスマスの素朴なイルミネーションのように見えて、かわいい、真似してみようと思うのだが、展示室内全体を見渡すと、真似なんてとんでもないことに気づかされる。
展示ケースのガラスが暗闇によって鏡の働きをして、ぽつぽつと照らされた豆電球の明かりがどこか良きところに続く道のように連なって見える。あるいは「銀河鉄道999」が宇宙軌道に走り出す時の線路の光のようにも(第1展示室の出口付近から最初の展示の方向を見ると消失点を持った道筋に見える。また、エッフェル塔のような形にも見える)。
展示ケースのガラスがあるところ、ないところ、テグスで浮かぶ風船がガラスに映ったり、素で見えたり。素朴な素材が素朴な仕組みで見せる空間は、複雑なようでいて案外シンプルな世界とも、素朴でいて底知れない深さのある世界とも、どちらとも決めかねる両義性が感じられる。
第2展示室の「恩寵」は白い円形の薄い紙の重ねが作品だが、鑑賞者は1枚持ち帰りができる(キリスト教の聖体のパンをちょっと想像した)。
中庭の展示のたなびくオーガンジーのリボンの「精霊」の下で子どもが「恩寵」の紙片をひらひらと風に浮かせて遊んでいた。リボンと紙片が一緒に風に乗る風景は偶然にしても美しかった。
Scope