きょうは佐々木丸美氏の一周忌です。

[千野]とすると千街さんと一瞬間違えそうになるので[帽子]としました。
本文とはまったく関係ない話ですが、『警察24時』のナレーションは小林清志に限るし、『歌舞伎町ホストの真実』のナレーションは江守徹に限ります。

雪の断章 (佐々木丸美コレクション)

雪の断章 (佐々木丸美コレクション)

崖の館 (創元推理文庫)

崖の館 (創元推理文庫)

昨年、著者長逝の前月、《東京新聞》で取上げた『雪の断章』と軽く言及した『崖の館』が、それぞれブッキングと創元推理文庫から復刊されました。もちろん俺が取上げたことが復刊の後押しになったわけではなく、熱心な〈マルミスト〉の人たちの努力の賜物なのに、なぜか両社から献本をいただきました。ありがとうございます。
ブッキングからは『崖の館』や、佐々木丸美が原作を担当したわたなべまさこの漫画を含む、全18巻の佐々木丸美コレクションが刊行されることになっていて、『雪の断章』はその第1回配本です。。
創元推理文庫からは『崖の館』にはじまる《館》もの3作が刊行されるそうです。『崖の館』の底本は講談社文庫版と書いてあります。ブッキングの全集が親本(親本のほうが著者の意向に沿っていると言われる)を底本としているので、あるいは差別化してそれぞれに商品価値を持たせたか。『異邦の騎士』の複数の版が流通しているような贅沢感。
異邦の騎士 (講談社文庫)

異邦の騎士 (講談社文庫)

異邦の騎士 改訂完全版

異邦の騎士 改訂完全版

昨年の記事あるいは今年出た拙著をお読みのかたはおわかりのとおり、俺は佐々木作品に全面的には没入できないため、かなり突き放した紹介のしかたになっていて、申訳なく思います。
しかしその点は『崖の館』解担当の若竹七海氏も同様であるらしく、

 実を言えば、わたしはこの少女趣味的な要素がかなり苦手である。凉子の心的描写などを読むと、言葉の選び方といい比喩のしかたといい他にこんな風に書ける作家はいない、だからすごい、とは認めるけれど、同時にどうにもこっぱずかしい。〔…〕あまりにもまっすぐで、あまりにも純粋で、あまりにも甘い。〔…〕それこそが佐々木丸美のすばらしいところだ! と絶賛する読者は大勢いるだろうが──わたしみたいなひねくれ者はちょっと、ひいてしまう。

と書かれています。
そんな〈少女趣味的な要素がかなり苦手〉な若竹さんに『クール・キャンデー』なるガーリッシュなミステリがあることはよく知られています。佐々木丸美に(狭義の)少女趣味、拙著で言うところの〈少女趣味の暗黒面〔ダークサイド〕〉的にところがあるとしたら、『クール・キャンデー』こそはガーリッシュと呼ぶにふさわしい。そしてこれは、彼女が佐々木丸美の〈少女趣味的な要素がかなり苦手〉だったからこそ書けたものです。

クール・キャンデー (祥伝社文庫)

クール・キャンデー (祥伝社文庫)

第3作以降、佐々木作品がどんどん閉じていって、小説というよりファンクラブ会報的な側面を持つ鬼気迫るものになっていったのは事実ですが、それでも最初の2作『雪の断章』『崖の館』が類例のない作品であることに間違いありません。
著者が雪の季節に世を去ったのは、尾崎翠の命日が蘚の花の季節にあるのと同じくらいのあれを感じます(あれ、になんの語を入れていいものやら)。【id:chinobox