[佳多山]『私のハードボイルド』
基本的にビール党なのだけど、カクテルを飲む機会のあるときは、必ずギムレットを注文する。小鷹信光さんも大いに期待をかけてらっしゃったが、僕も村上春樹訳の“THE LONG GOODBYE”を心待ちにしている一人だ。
『私のハードボイルド』の冒頭、斎藤美奈子さんの「ハードボイルドとは男性用のハーレクインロマンスなのだ」という評言(「Pink」1996年6月号)が紹介されていたが、そういえば、恩田陸さんが『木曜組曲』(1999年)のなかでハードボイルド小説のことを「男のメロドラマ」と登場人物の一人(当然、女性)に言わせてたのを思い出した。「飽きずに同じ話繰り返すって点では徹底してるよね。あたし、二百字で粗筋説明できるよ。これで、日本で出版されるハードボイルドの帯全部に使えるよ」(単行本123頁)とも。クダンのよく出来た「粗筋」は、本篇でご確認ください。
チャンドラーの作品のなかでは、やはり『長いお別れ』がいちばん心に残っている。――しかし最近、昔々の読書録を引っぱり出してみると、高校生の自分が清水訳の同作に存外感激しているわけでもなかったことが判明して驚いた。マーロウがシルヴィアの姉と寝ることにケチをつけ(そんな場面があったことはすっかり忘却)、プロット上の疑問点をいくつかメモしている。3月刊行の新訳本は、十代の頃の僕の疑問に答えてくれるだろうか。