エッシャー風きのこ

年明けに渋谷のBunkamuraザ・ミュージアムで「スーパーエッシャー展」を見てきた。たしか2日のことであったと記憶するが、年始早々からチケット売場に列ができ、25分待ちと表示されており、この版画家の人気を痛感した。もっとも、一計を案じた当方は、Bunkamuraの近所にあるブックファースト渋谷店のサービスカウンターで当日券を購入して、ミュージアム前のチケット売場の列には並ばず入場することができたのだが。

DDD 1 (講談社BOX)

DDD 1 (講談社BOX)

奈須きのこの最新刊『DDD1』を読んで、展覧会で見た一枚の版画を思いだした。【以下、ネタバレ反転】
それは、「描く手」と名づけられた一枚のリトグラフである。そこには二つの手が描かれている。ただし、この二つの手は同じ位相には存在しておらず、片方の手はもう片方の手をデッサンしているのである。要するに、前者の手が生身のオリジナルだとすれば、後者の手は絵に描かれたコピーに過ぎない。ところがよくよく見直すと、前者の手もまた、後者の手によって描かれたデッサンであることがわかる。すなわち、この二つの手は、どちらが本物でどちらが贋物か区別がつかない。
『DDD1』の中核を占める「HandS.(L)」「HandS.(R)」に仕掛けられたトリックは、たがいに相手を模倣する鏡像関係に基づいている。本書のこうした結構が、M・C・エッシャーの「描く手」を彷彿とさせるのだ。