文学作品という憑物

これもしばらく前に読んだ本に関する覚え書きである。

“文学少女”と繋がれた愚者 (ファミ通文庫)

“文学少女”と繋がれた愚者 (ファミ通文庫)

野村美月“文学少女”と繋がれた愚者』(ファミ通文庫)は「文学少女」シリーズの第三作。
今回の作品で展開する“文学少女”天野遠子の推理はあたかも、憑物落しの作法を彷彿とさせる。被害者や加害者たちの抱えこんだ物語に(妖怪の代わりに)「文学作品」という呪(しゅ)を憑かせ、しかる後にそれを祓い落とす。今回俎上に載せられた文学作品は、武者小路実篤の『友情』。
ただし、遠子先輩は京極堂のような陰陽師ではなく“文学少女”という妖怪サイドに立つ存在である。もっとも、陰陽師の祖たる安倍晴明からして、狐と人のあいだに生まれた半妖ではあった。
さて、今回の憑物落しによって、シリーズ第一作以来の懸案であった主人公・井上心葉の心に巣くう魔も一瞬吹き払われたように思われたが、そうは問屋が卸さない。心葉少年の心の器に随う「文学作品」は、『友情』とはまた異なる物語が想定されているようだ。
ちなみに、初登場時にはツンデレの脇役キャラと思われていた琴吹ななせ嬢であるが、井上心葉/ミウの物語に深く関わっていたことが徐々に明らかになってきた。今後の展開がなかなか愉しみである。
はてさて、作者は心葉の物語をいかなる「文学作品」によって完結させようとしているのか?