クリストファー・プリースト『双生児』

クリストファー・プリースト『双生児』を読んで、レン・デイトンの歴史改変スパイ小説『SS−GB』(1978)――「イギリス本土駐留ドイツ親衛隊」の略語で、「もし1941年にヒトラーが英国を占領していたら歴史はどう変わっていたか?」をテーマにした異色作――を否応なく連想した。宮脇孝雄『書斎の旅人』には、次のような指摘がある。

 ミステリの世界で、既成のチャーチル伝説に疑問を呈したのは、『XPD』(単行本『暗殺協定XPD』、文庫版題名『裏切りのXPD』)のレン・デイトンである。このデイトンも、SF的設定の『SS−GB』など第二次世界大戦に取材した物語をいくつか発表している作家だが、彼の戦争観は詳しく検討する価値があるだろう。(「25 第二次世界大戦の影」)


 こうして見てゆくと、デイトンの作品の中で異彩を放っていた三作(『爆撃機』『SS−GB』『XPD』)が、チャーチルの謎という一本の糸でつながるように思われるのだが、どうだろうか。(「26 ウィンストン・チャーチルの謎」)

作品の性格からいって、『双生児』の著者が『SS−GB』をまったく参照しなかったとは、私には思えない。にもかかわらず、プリーストのデイトン評価は、あまり芳しいものではないようだ。

プリーストのウェブサイトに掲載された『双生児』の注釈つき参考文献一覧「戦争読書録」の中に、一度だけデイトンの名前が出てくるが、その扱いはかなり辛辣である。《レン・デイトンは粗野に(crudely)書かれた小説『爆撃機』で、そのような何かを試みた。しかし、マーティン・ミドルブルック(註・プリーストがべた褒めしている歴史ノンフィクション作家)の著作こそが本物(the real thing)なのだ》。いうまでもなくデイトンの小説は、参考文献としてリストアップされていない。

双生児 (プラチナ・ファンタジイ)

双生児 (プラチナ・ファンタジイ)