諏訪敦 絵画作品集

 2年前、ミステリ作家・飛鳥部勝則のサイトで諏訪敦の作品が紹介されていた。さっそく近所の書店に行き、画集を購入した。それから、ヒマなときにぱらぱら見てあれこれ考えているのだが、見れば見るほど奇妙な気持ちに襲われる。

 諏訪敦の絵は徹底的な具象絵画である。

 近代絵画の歴史は、教科書的には写真機の発明によって説明されることが多い。それまで「ほんものそっくり」に描くことを重視してきた具象画が、カメラの登場によって「そっくり」さに太刀打ちできなくなってしまった。その結果、画家の内面を重視する近代絵画が生まれた、というわけだ。「被写体を表現すること」から、「表現者が被写体をダシに自己を表現すること」へ。こうして、20世紀のコンセプチュアル・アートへの扉が開かれた――美術の教科書的な理解では以上のようになる。

 わたしが不思議に思うのは、アートシーンではもうほとんど具象画が描かれなくなり、だれもが正体不明のオブジェ製作や抽象画、奇をてらった挑発的なアイディアを発表しているさなかに、徹底的な具象画を確信的に打ち出すと、それが斬新なコンセプチュアル・アートに見えてしまうという点だ。そこにはきわめて人工的な意図と、因習にとらわれない発想の新鮮さがある。

 秩序とは、恒常的な傾向性のことである。数百年、戦乱がつづけばそれはすでにある種の秩序となる。その後に出現する平和は、秩序紊乱的なものだ。

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