佐藤さとる コロボックル物語展
神奈川近代文学館で「佐藤さとる コロボックル物語展」が開催されている。
この物語の舞台のモデルになったのが横須賀と横浜なので、いわば神奈川のご当地文学になるのである。横浜や横須賀は大人になってみれば地元に感じられる距離の場所なのだが、子どもの頃は、近くにそんなコロボックルが住むような町があるなんて思いもしなかった。区画整理がきちんとされた新興住宅地で育った私は、コロボックルに絶対会えないことをちょっとばかり悲しく思っていたような気がする。親戚の住む瀬戸内の町に山の迫った港があって、そちらの方がコロボックルが住んでいそうな町だと思っていた。もちろんコロボックルは架空の存在なのは承知していたが、コロボックルのいそうな場所に住めたら素敵なのに、という気持ちがあったのだ。*1
私は町を俯瞰する絵、町を地図のように眺める絵が好きで、たぶんそれは鳥のように飛びたいというより、世界を把握したい、世界がどんなになっているのか知りたいという方に気持ちがあると思う。村上勉の描くコロボックルの世界も背丈の小さいコロボックルを描きながらちんまりした世界に収まらずに、ちょっとした景色も高いところから描いたり、町を俯瞰したりしていて、地面から空高いところまでコロボックルが移動する空間を全部網羅して描いているのが気に入っている。
コロボックルのビジュアル面は村上勉の挿絵に負うところが大きいが、弱冠22歳で数十年後も通用するコロボックルの世界を描いたのはすごいな、と思う。「ふしぎな目をした男の子」のような目を持っているのだろうな。
文学館の休憩スペースの大きな窓から外のちょっとした庭木を眺められ、そこに実物大(約3センチ)のコロボックルがいるので、その人数を探してみよう、と張り紙がしてあって、真剣に探してしまった。私以外の来館者も一生懸命に探していて、ガラス窓にみんな額をつけているのがほほえましかった。見ようと思えば目につくけど、気に留めないでいると見つからないコロボックルの存在というのが実感できる企画といえよう。あまがえるスーツを着ているコロボックルは、停止しているから見つけられるものの、木の葉に紛れるし、動いていたら分からないなあ。そもそも姿がカエルだし。出口にコロボックルの人数の答えが出ているのだけど、どうしてもあと1人を見つけられなくて、いったいもう1人はどこにいるのだと、未だ気になっている。
ちなみに閲覧室では「日本の怪奇幻想文学」のミニ展示中。取り上げている作品が好きな作品が多いのに、時間切れで見られなかったのが心残り。
*1:この物語にも新興住宅地は登場しており、コロボックルの領域を侵害するものとして書かれているので、身の置き所のなさを感じたりもした。