天使と後期クイーン的問題

ミステリクロノ〈2〉 (電撃文庫)

ミステリクロノ〈2〉 (電撃文庫)

久住四季ミステリクロノ』の最新刊。時間を操作する能力を持ったアイテム、七つのクロノグラフの行方を捜索するミステリ・シリーズである。
今回のテーマは“時間欠落(ドロップ)”のクロノグラフメメントメメントは、過去の特定期間における相手の記憶を消去する能力を持った装置である。第1巻に登場する“時間回帰(リターン)”のクロノグラフ、リザレクターと類似した機能のように感じる。しかし、記憶どころか身体そのものを過去の状態に巻き戻すリザレクターはともかく、相手の記憶だけを消去するメメントって、そもそも時間を操作していることになるのか? こうした読者の疑問に応えるべく、久住は作中人物に同じ疑問を提起させ、別の人物によってそれを否定させている。しかし、その理屈って、結構詭弁のような気もするのだが……。
今回の事件のトリックは、シンプルながら皮肉が効いていて当方好み。ただし、メメントが単に人為的に記憶喪失を発生させる装置であることに対応して、必ずしもクロノグラフのような超常的な設定を持ちこまなくても成立するトリックである点が少し気になった。もっとも、狭義のトリックに固執しなければ、メメントを作中に導入する意味合いはあったと思う。というのも、クロノグラフによる犯罪であれば、“取り消し(リセット)”のクロノグラフ、リ・トリガーの力で元の状態に戻すことが可能だからだ。そして、このリ・トリガーを使用するのが正しい判断か否かを、探偵役の遥海慧に煩悶させることが、作者の意図したところなのだ。
余談ながら、当方は『2008本格ミステリ・ベスト10』に、犯人がいかなる機能のクロノグラフを幾つ保有しているか不明な点が、後期クイーン的問題を惹起すると記したが、シリーズが続いて探偵役がクロノグラフを収集してゆくと、それはそれで別の問題が生じることに気づいた。探偵役がクロノグラフを使用するだけで、推理を行うまでもなく、犯人が判明してしまう可能性が出てくるのだ。記憶抹消しか機能のないメメントはともかく、特定人物の体内時間を巻き戻すリザレクターなんかは、犯行当時の情報を得るうえで重宝するのではないか。実際、前回入手したリザレクターにはある制約条件があって、今回の事件の捜査には使えないという点に、作者はわざわざ慧に言及させている。この他にも、リザレクターでも屍者を甦らせることはできないという制約条件が付いていたはず。実際、そんなドラゴンボールみたいな機能をストレートに用いられたら、本格ミステリは成立しがたい。
このシリーズってかなり縛りが多いのだなぁと改めて感じ入った次第。