[法月]その男、マルコム――転位する媒介者

マルコム・マクラレン。『シチュアシオン――ポップの政治学』(上野俊哉)から、ヴァン・ダイン論のためのメモ。

 マルコムについては、その悪評ばかりを聞いてきた気がする。一つには、ぼくなどはセックス・ピストルズジョニー・ロットンより、PILのジョン・ライドンの方を圧倒的に支持していたものだから、そのライドンから「変節漢」や「金の亡者」よばわりされていたマルコムに感情移入することがほとんどなかったためである。彼がドゥボールやヴァネイジェムら「六八年世代」に強い影響を受けていることがわかったいまでも、彼が“うさんくさく”、どちらかと言えば“食えない奴”であることには変わりない。(p.53)

 このようにマルコム周辺の逸話をランダムにとりあげてみて、すぐにわかることは、彼らが何ら特権的な才能の持ち主ではないという端的な事実である。彼らはたしかにカリスマ的であったり商売上手であったりするのだが、彼ら自身はあくまでも“とるにたりない誰か”でしかない。そして現在では流行やパラダイムからほとんど消え去ってしまっている。(p.62)

 この媒介(者)【メディエイター】は自らの前提条件を設定するが、その前提が出来事=イヴェントとなってしまった後は、そこから消えていってしまう。言いかえれば、たしかにそれは「状況」を構築するのだが、その瞬間にそこから消滅するような主体なのである。(p.64)

シチュアシオン―ポップの政治学

シチュアシオン―ポップの政治学