都筑道夫と瀬戸川猛資

「フリースタイル」8号に「海外ミステリ読者必携の書」という題で、『都筑道夫ポケミス全解説』の書評を寄稿しました。

その文中で「『殺人をしてみますか?』の解説なんか、後年、瀬戸川猛資がW・L・デアンドリアを持ち上げる時、だいぶ参考にしたのではないか」と書いたのですが、この一行だけでは唐突すぎて、ほとんどの読者が何のことだかわからないと思います。

参考資料として、それぞれの著者の文章を並べてみましょう。まずは都筑道夫の「ぺいぱあ・ないふ」より、ハリイ・オルズカー『殺人をしてみますか?』の紹介文。

物語はピートの一人称ですすめられるのですが、地の文にもギャグがたくさん入っているし、会話がまた大変で、出てくる人物みんな冗談ばかり言っている。舶来漫才といったこの会話が、じつにしゃれていて、面白いのですが、それにごまかされて、これはユーモア・ハードボイルドだな、と思っていると、最後にしょい投げをくわされることになるから、ご用心ください。
(中略)
 このへんから、ユーモア・ハードボイルドは、がぜん本格調を帯びてくるのです。テレビ局内に関係者があつまって、あいつがあやしい、お前が怪しい、と騒いでいるところへ、事件担当の警部がやってくる。
 ピートはこの警部を無能だと思っているから、「名探偵、いよいよドラマチックに関係者をあつめて、真犯人を言いあてようというわけかね?」と、からかうと、警部は鷹揚にうなづいて、「そうだよ」と、言うのです。
 そして、警部がはじめる推理に、驚くのは作中人物ばかりではありません。ここにいたって、この作品はユーモア・ハードボイルドから、すばらしい本格探偵小説になってしまうのです。

つづいて瀬戸川猛資の『夜明けの睡魔』から、「大団円の研究――ウィリアム・L・デアンドリア『ホッグ連続殺人』」の抜粋。

 『視聴率の殺人』は小味な作品だが、とてもモダンでしゃれた、きらきらした印象を与えるミステリである。〈ときに、人々はそれをバブル【おしゃべり】の塔と呼ぶ〉というすてきな書きだしで、テレビ局内の探偵ともいうべき主人公の一人称でドラマが進行し、チャンドラーばりの粋なセリフがポンポン出てくる。だからわたしはこれを“ネオ・ハードボイルド”とかいう私立探偵小説の一種だと思って読んだ。本格物だなどとは考えもしなかった。
 ところが、クライマックスが驚きなのである。主人公が容疑者一同をテレビ局の一室に集めて、「さて皆さん、今こそ真犯人を――」とやりはじめる。あの古い古い、大時代な本格物に特有の趣向が登場するのである。

『殺人をしてみますか?』と『視聴率の殺人』は同じような趣向の小説なので、たまたま似通っただけのことかもしれませんが……。だとしても、二人の読みのツボがそっくりなのが面白かったので、この機会に紹介してみました。

都筑道夫 ポケミス全解説

都筑道夫 ポケミス全解説