『クリスクロス』

今野緒雪の新刊『マリア様がみてる クリスクロス』(コバルト文庫)を読んだ。
作中、社会科準備室の中で白地図を探していた瞳子に向かって、友人の乃梨子は次のような言葉をかける。

「私、わかった。今の瞳子はきっとこんな狭い部屋で、祐巳さまを探しているみたいなものなんだ。でも、いくら探したって、祐巳さまはこんな所にはいないんだよ。祐巳さまは、瞳子が思っているよりずっと大きくて。この部屋には入りきらないくらい大きくて。だから瞳子には、見えないんだ」
 乃梨子は、鼻をすすった。
祐巳さまの心がわからないんだ」

この台詞を読んで、「地図」つながりで某作品の次のくだりを思いだした。

「地図を使ってやるパズル遊びがあるね」と彼はつづけた。「町や河や州や帝国の名……要するに何でもいいから、ごちゃごちゃしている地図の上の名前を言って、相手に探させるわけだ。初心者は、いちばん細かな文字で書いてある名前を言って、相手を困らせようとするのが普通だけれど、上手になってくると、地図の端から端まで大きな字でひろがっているような言葉を選ぶ。こういう名前は、街の通りの看板やプラカードであまり大きな字を使っているものと同じように、極端に目立つせいでかえって見のがされてしまうわけだ」(丸谷才一訳)

【※以下、両作品の内容に触れるので、ネタバレ反転】
『クリスクロス』を読み終えて思ったのは、上記のほかにもいろいろな意味で本書がその某作品――E・A・ポオの『盗まれた手紙』――の影響下に執筆されているという事実である。
「真相は紅薔薇の下にある」という結末も、昨年の出来事を別の意味合いで見事になぞっていて、興味深い。