屈辱ゲーム。
前の日記に大森さんが『源氏物語』のことを書いていた。
その3日前には、こんなニュースがあった。
仏大統領が祝福メッセージ
=「源氏物語千年紀委」に−京都
4月27日21時31分配信 時事通信2008年に源氏物語が記録上確認されてからちょうど千年を迎えるのにちなみ、1月に設立された「源氏物語千年紀委員会」の事務局開設式が27日、京都市であった。フランスのシラク大統領からも祝福のメッセージが寄せられた。
委員会は、裏千家前家元の千玄室氏や作家の瀬戸内寂聴さんら呼び掛け人のほか、山田啓二京都府知事、桝本頼兼京都市長、久保田勇宇治市長らで組織された。
シラク大統領はメッセージで「源氏物語は世界文学の傑作」とほめたたえ、千年紀が日仏通商条約150周年と京都パリ友情盟約50周年に重なることを引き合いに、「日仏両国が維持している緊密な関係がさらに飛躍すると確信している」と期待感を込めた。最終更新:4月27日21時31分
読んでちょっと胸が疼いた。というのは、いま自分が住んでいる国の元首が、日本にいたころ自分が住んでいた町のイヴェントに祝辞を寄せているというのに、俺ときたら『源氏物語』に何度トライしても3分の1くらいのところで登場人物の区別がつなかくなってしまい、通読できたためしがないのだ。
漫画ならいけるかと思って、大和和紀の『あさきゆめみし』の第1巻を手に取ったこともある。十数頁で挫折した。登場人物の顔の区別がつかなかったのだ。そもそも自分は少女漫画全般が苦手だったことを忘れていた。
デイヴィッド・ロッジの『交換教授』に〈屈辱〉というゲームが出てくる。
交換教授 (上) (白水Uブックス (58))/交換教授 (下) (白水Uブックス (59))
ゲームの参加者は、自分がまだ読んでいない任意の本を挙げる。有名な本が望ましい。というのも、他の参加者のうちその本を読んでいる人がひとりいれば1点はいるからだ。つまり「多くの人が読んでいる本」を読んでいない人が勝ちというゲームである。屈辱という名がついているのも頷けないこともないが、なんというか厭なゲームだ。
作中では英文科の教授連がやっている。ミルトンの『復楽園』を挙げるものがいる。ロングフェロウの『ハイアワサの歌』を挙げるものもいる。前者は『失楽園』があまりに有名な作者のべつの作品、後者はマイク・オールドフィールドのIncantationsの歌詞に出てくるからロックファンならご存じかもしれない。
ハワード・リングボーム教授は当初、無名の18世紀小説などを挙げて遠慮気味だったが、こともあろうに英文科の主任が『復楽園』を読んでいないという事態に際会して、負けじとこう叫ぶのだった。
『ハムレット!』
ローレンス・オリヴィエの映画は観たが、原作は読んでいないというのだ。だれしも当初は信じない。嘘をついているのだ、ネタだと思う。みなが信じないとハワードは激怒し、全員をどん引きさせる。挙句、彼が『ハムレット』を読んでいないという噂は短時日のうちに千里を走り、彼はとうとう終身在職権(テニュア)の審査に落ちてしまうというオチ。
SFコンヴェンションやMYSCONではこういうゲームをやるのだろうか。そして自分はいつ『源氏物語』を通読できるのだろうか。【id:chinobox】