魔術的な三角形

トリックスターズC〈PART1〉 (電撃文庫)

トリックスターズC〈PART1〉 (電撃文庫)

トリックスターズC〈PART2〉 (電撃文庫)

トリックスターズC〈PART2〉 (電撃文庫)

久住四季の『トリックスターズ』シリーズもついに完結編である。しかし、そのPART1を読んでいて唖然とした。このシリーズは魔術師が実在する世界を舞台とした学園ミステリである。そして背後には、世界の消長をも左右しかねぬ魔力の帰趨をめぐる問題が横たわっていたはず。にもかかわらず、完結編たる本書で勃発するのは、学園祭のイベント会場からさまざまな物品が盗まれるという、紛れもない「日常の謎」であったからだ。というか、これって久住版『クドリャフカの順番』かよ?
というわけで、作者がいったい全体どう手仕舞うつもりか不安いっぱいで、後編となるPART2の頁をめくったのだが、幸いにもうまい具合に着地できたように思う。もちろん、本書をもって物語が最終地点まで到達したわけではなく、「第一部・完」といった印象は強い。しかし、未来への展開に向けた「魔術師の旅立ち」を何とかミステリ的感興に繋ぎえたと感じるのだ。
本書には、学園祭という祝祭的な場にさまざまな人間関係を走らせる。学園祭の実行委員長、国塚崇をめぐる蓮見曜子と瀬尾深尋の恋の鞘当て。朴念仁にもかかわらず城翠大学に彼女がいるという高校生、園馬遊征と、その園馬に告白しようと思いつめる智納木須美。三嘉村凛々子に片思いの衣笠偵史郎と、彼に片思いしている宮野亜子。さらには、三嘉村凛々子、萌々花の姉妹と、二人の父親。本書に描かれる人間関係は基本的に三者間のそれであり、最後のものを除けば、いわゆる「三角関係」という代物ばかりである。学園ものの定番ともいえる、ありがちな三角形。
しかし、ここまであからさまに三角関係を連ねたのは、作者の意図する仕掛けであろう。なぜなら、これらの三角形の重なりあいの中に、最大の三角形が潜んでいるからだ。それは言うまでもなく、『トリックスターズ』シリーズが当初から描いてきた三人の魔術師をめぐる三角形である。
本書に登場する三角関係はいずれも、いったん壊れることを通じて新たに関係を結びあう性質のものであった。たとえば、国塚を挟んで憎みあっていた蓮見と瀬尾の間柄は、いつの間にか互いをライバルとして認めあう建設的な関係へと発展する。智納木は、無理を承知で園馬へ告白することで、自分の想いを再確認して次の一歩を踏みだすことができるに違いない。こうした複数の三角形をめぐる変貌の図式が、三人の魔術師たちの関係の解消と変成とを準備するのだ。
考えてみれば、ヘキサグラム(六芒星)――わが国で籠目紋、ユダヤではダビデの星と呼ばれる魔術的な六角形は、三角形を互い違いに重ねあわせたかたちをしていたはず。本書に綴られたさまざまな三角関係は、「六人の魔術師(ヘキサエメロン)」の新たなる存在の誕生を言祝いでいるようではないか。