おれのゴルゴに。
千野帽子のシリーズを読んで思い出した、あるマンガ評論めいた文章がある。
1989(平成元)年に手塚治虫が死に、「これからはマンガのアカデミックな研究や批評がどんどん出てくる」と友人と話し合っていたころ、だと思う。
ある雑誌で読んだマンガ評論の文章だったはずだ。完全に記憶で書いているのであいまいだし、はっきりと出典を指摘できずくやしい。ひょっとしたらすごく有名な文章かもしれず、その書き手も名のある方なのかもしれない。ご存知の方はぜひ、コメントを寄せてください。
文章の書き手は以前、『ゴルゴ13』のあるエピソードを題材に、「超A級スナイパーであるはずの彼が、このような不手際な計画を立てるのはおかしい」という指摘をしたらしい。比較的理屈を立て、物語の設定との不整合を批判したわけだ。
書き手は反応を2通り予想したという。
読者からの手紙は2通(!)しかなく、それらの手紙は予想された反応の2通りを代表するものだった。すなわち
1・たかがマンガじゃん。そんなにアツクなるなって。
ある種の「無関心」を想像させる反応。
2・おれのゴルゴに文句をいうな。
熱烈な愛情を吐露する反応。
文章の書き手は自分の予想の的中を嘆いてみせていた。
ジャンル読者に前者の「無関心」派はいないだろう。しかし、後者の、ジャンルに対する愛情を楯に、余計な言説を拒絶する傾向は高い。この場合の愛情は、愛は愛でも「盲愛」である場合が多い。親が盲愛で子どもをだめにするように、読者の盲愛は決してジャンルのためにならないと思う。